「ねぇ、寒くない?」
「来週には12月になる11月も終わりのこの時期に、寒空の下で立ち尽くすこの状況で寒くないわけないじゃん。そんなの聞くまでも無いことを聞いてる暇があったら、さっさと私の目の前から居なくなってくれない?出来れば永遠に」
「そうだね。だから何処かに入って、お茶でもしよう」
「私の話聞いてた?アンタのせいで、私はこんなとこに立ってるんだけど、臨也?」
新宿に来たのは本を買いたかったから。普通に新刊を購入するなら、池袋のジュンク堂でも良かったのだけれど、サイン会の整理券が欲しかったから、わざわざ新宿の紀伊国屋まで来たのだ。出来れば、来たくなかった。新宿は臨也の領域だから。オフィス街でも無い南口店ならば会う確率も低いと思ったのだけれど。やっぱり止めておくべきだった。電話で整理券の予約は出来るし、本だってサイン会当日に買えば良かったんだ。そしたら、こんなことにだってならずに済んだ。
眼の前でにこにこと微笑んでいる奴が今すぐ殴りたいくらいにうざい。出来ることなら全力で逃走したいのだけれど、以前そうしたら私が疲れて止まるまで追いかけてきた。その次の時は、会った瞬間背を向けて歩き去ったのだけれど、後をついて来るのを無視していたら入った喫茶店で勘違いした店員によって相席にされた。あの時は、最悪だった。1時間以上も臨也の一方的な愛の語りに付き合わされたのだから。それ以来、臨也と会った際に逃走するということは諦めた。だから、今回もこうして冷たい外気に晒されながら新宿のサザンテラスで立ち尽くしているのだ。
「そっか、俺と一緒にこのイルミネーションを楽しみたいんだね。大丈夫、君と過ごせるならこれくらいの寒くも何ともないから」
「誰も言ってないから、そんなこと。それとも臨也君は遂に幻想の世界の住人とお話し出来るようになったわけ、凄いね、本当だったら縁切るけど。あ、切るような縁が最初から無いか」
「俺と君の間にあるのは、そう簡単に切れる縁じゃないか。むしろ切っても切れない縁かな」
「寝言は寝て言え。大体なんで臨也がこんな時間に此処に居るわけ?元はと言えば、アンタが居たせいで……っくしゅ」
あぁ、そろそろ何処かに入らないと、このままでは本格的に風邪を引く。そうだ、このまま池袋に戻ってしまえば臨也もついて来ないんじゃないか? そう思っていると、諸悪の根源である男がやたらと嬉しそうにしているのが目に付いた。
「何? 言いたいことがあるならはっきり口で言って。黙ってて伝わるわけないから、人間は他人の思考なんて読めないの。例え読めたとしても、私はアンタの思考なんて読みたくないけど」
「うん。じゃあ言うけど、可愛いくしゃみだなと思って」
「はぁ? 螺子外れてんの? 可愛いとか言われても嬉しくな……っく」
「我慢しなくても良いのに。むしろもっと聞かせて欲しいくらいだね」
「っさい黙れ。アンタを喜ばせるくらいなら……っくしゅん」
3度目になるくしゃみをしたところで、首にふわりと暖かいものを掛けられた。首元の開いた服を着ていたから冷えていた部分が温められて丁度良い。巻かれたマフラーから微かに香るのは――
「可愛いくしゃみも良いけど、風邪を引かれるのは困るからね。もし引いたら看病と称して部屋に行くけど」
「絶対に風邪なんか引かないから、臨也の出番なんて一生来ないから。引いたとしても新羅のとこ行ってセルティに看病して貰うし」
「じゃあ冷えた体を温める為に、暖かいものでも飲もうか。最近新しく紅茶専門店が出来てね」
「…………奢りだからね。ケーキも食べるから」
「了解」
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