22時30分。子供はそろそろ寝なさいと言われ、学生であっても睡眠時間8時間を守る健康的な人ならば寝ようかという時間。しかし、繁華街においては逆に活気が出てくる時間でもある。池袋も例外ではない。
「2軒目とかに行くのもこのくらいの時間だしねぇ」
そういうわけで、人が多いのは分かる。むしろ、この時間に人が全く居ない方が怖いだろう。
「何ぶつぶつ言ってんだ、今の状況分かってんのか?」
だから、こういう奴らが湧いてるのも予想の範囲内のことだ。注意はしてたつもりだったが、大通りから少し外れた道に一人で立っているのはやはり目立ったらしい。
「ちょっと金貸してくんないかなぁ? あぁ、金が無いならお姉さんが相手してくれるんでも良いけど?」
「こんな時間に一人で立ってるから悪いんだぜ」
絡まれてから数分、最初から話なんて全く聞いてはいないけど、そろそろうざくなってきたから逃げようかな。これで殴ったりしても正当防衛だよね、うん。等と考えていると、視界の端に見慣れた金髪が見えた。それからすることは一つ、10秒間眼を潰る。10秒後に眼を開けた時には、うざったい連中は目の前から消えていた。左を向くと、引きちぎられたような標識とその下敷きになっている人影がある。良く知らないけど、標識って一つ幾ら位するもんなんだろう。本日の破損品についてぼんやりと考えていると、強い力で腕を引っ張られた。
「なんでこんな時間にこんなとこに居るんだよっ!」
「静雄に会いたかったから」
「……っ、だったら連絡しろ、携帯あるだろ!!」
「だって此処で待ってたら会えるって分かってたもの」
分かってるならわざわざ連絡しなくても良いじゃない。そういう意味を込めて言うと、静雄の米神がぴくりとする。あぁ、これは怒っているな。怒られるだろうことは覚悟していたから別に構わないけど。
「あのな……待つなら人通りが多いとこにしろ。何かあったらどうなるか分かんねぇから」
「怒らないの?」
「会いたかったからなんて言われて怒れるかよ」
話している間にも、ぐいぐい腕を引かれて歩かされ、もうサンシャイン通りに出ていた。と、自販機を利用するのに停車していた京平達と眼が会う。静雄はそのまま彼等の方へと向かってく。
「門田、コイツ家まで送っといてくれ」
「仕事か?」
「まだ終わってねぇから」
「ちょっと、私を無視して話進めないでよ。高校生でもあるまいし一人で帰れるから!」
勝手に送り届ける手筈が調えられていく。というか静雄に会いに来たのに、あんまり話せてないし。いや、それはまだ仕事終わってないみたいだから仕方ないけど。
「おい、明日は早く終わるから、9時に此処に来い」
言いたいことは言った、とばかりにこちらが声を掛ける間も無く、静雄は居なくなってしまった。
「デートのお誘いってやつだね!」
「いやぁ、お二人共ラブラブで羨ましい限りです」
「後で静雄の奴にキレられたくないから送るぞ……お前その手どうした?」
京平に言われて見ると、右の手首が赤く腫れていた。私が絡まれていたところを静雄が助けた、という展開は予想が付いているのだろう。大方その時にやられたのかと考えているのだと思う。
「心配しなくとも、これ、静雄がやったのだから」
「アイツ、加減出来ないのか」
「んー見解の相違ってやつ? 私は嬉しいし」
「……お前って実はマゾか?」
「そうじゃなくって、加減とか気にする余裕が無くなる位に心配してくれたってことだから」
普段はとても気を遣ってくれている。触れてくる時に、壊さないように、と思っているのが伝わってくる程に。それも嬉しいけれども、そういう余裕が無くなる位に想われているという方がもっと嬉しい。
「これ見ると、愛されてるなぁって思うわけよ」
キスマークより、よっぽど分かりやすい跡。
これも一つの愛のカタチ。
【お前って実はマゾか?】
(ありのままの姿を受け入れるヒロイン)
(フルバだね!!)
(どうしてそうなるんだ)
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