※grks妄想の産物です。
OSS(お前がそう思うならそうなんだろ、ただし猫箱の中ではな)をご理解頂ける方のみ閲覧して頂ますようお願いします。
12年もの間、人の手が入らず荒れに任された島は、久々の来訪者を出迎えるように鳥が鳴いていた。
――うみねこのなく、六軒島。
天草が言ったように此処は「全ての始まりで、全ての終着駅」だ。
彼がどういう意図で口にしたのかは分からないが、この先に起こることを見据えてのことであるならば皮肉も良いところだった。
船から降りて島に立った縁寿の姿を見ながら、は決して顔には出さないものの複雑な思いを抱えていた。
終着駅、此処まで来てしまったからにはもう退路は無いのだ。だからせめて――
「、何しているの? 行くわよ」
「済みません、縁寿様。海に来たのが久しぶりだったのもので、少し気を取られてました」
「お嬢、やっぱり俺が一緒に行った方が良いんじゃないですかね?」
言外にこの程度のことで集中を切らしているような奴では護衛に心許無いと天草は言っていた。
反応は遅れたがも話は聞いていたので状況は理解している。
『毒素』という理由については良く分からないが、縁寿は天草は此処に残して彼女だけ連れて行くことにしたらしい。
縁寿の身を守るべき唯一の護衛がこの程度のことで集中を欠いているならば、彼女ではなく彼を連れていくべきだと、要は交代を申し出ているのだ。
勿論、縁寿はそのようなことで意見を変えたりはしないのが分かりきった上でだろう。
「私はね、出来ることなら一人で行きたいくらいなのよ。でもそれじゃあんた達が護衛の役目を果たせないと思うから、毒素がそこまで強くないだけは連れて行くことにしたの。現状で既に妥協してるんだから、これ以上は無理ね」
「でしょうね。んじゃま、気合い入れてしっかり頼みますぜ」
「言われなくても。『私の仕事』はしっかりこなすから」
船長と天草に見送られて、縁寿と共に森へと踏み入る。
以前は整備された道があったのかもしれないが、それもこの12年の間に生い茂った草木で獣道と等しい状態になってしまっている。
護衛が一人である以上、必然的には先行する縁寿を追いかける形を取っていた。
本来ならば、この進み難い道なき道を縁寿に先行させるような真似はしないのだが、いつどこから襲撃があるとも知れない状況で縁寿を後ろに立たせるわけにはいかなかった。
結末が変えられないとしても、はむざむざと須磨寺の人間にやられようとは思っていない。
むしろ、奴らにだけは縁寿を渡さないと決めていた。
故に、今この瞬間の彼女は正しく縁寿の護衛としての務めを全力で果たしているに過ぎない。
「ねぇ、は何か感じる?」
「今の所は追っ手の気配などは無いと思いますけど」
「違うわ、そうじゃなくて・・・・・・いい、気にしないで」
何かを言いたげに開いた口を縁寿はまた閉ざす。
昔ならいざ知らず、今の彼女の考えていることはには分からない。
彼女が沈黙を選んだ以上、には続ける言葉は無いだろう。
けれども、ここでこのまま会話を終えてしまうのは勿体ないと、そうも感じていた。
再会を果たして以来、ほぼ常に天草も共に行動をしていたため、が縁寿と二人になれる機会はほとんどなかった。
そして恐らく、これがきっと『最後』の機会。
邪魔をするつもりはないと言った手前、話をしたいから少しだけ待ってくれなどと彼に頼むわけにもいかない。
だから、これが『最後』なのだ。
そう思ったら何とか会話を繋ぎたくて、ふと頭に思い浮かんだのはかつて彼女から聞いた話だった。
「森には魔女が住んでいる、でしたっけ」
「あなた、分かるの?」
「いいえ、私は何も。ただ、あの頃に縁寿様が言っていたことを思い出しただけです。それで、居るんですか? 今も」
「えぇ、居るわ。やっぱり天草じゃなくてあなたを連れてきて正解だったみたいね」
「どんな理由にせよ、彼に勝っているのは嬉しいですよ」
縁寿が何を見て、何を感じているのかはには分からない。
ただ、彼女の心が六軒島の魔女・ベアトリーチェにある意味で捕らわれていることは理解していた。
そのために此処まで来たのだから。
+++
地図を頼りに暫く進むと、草木に覆われた道の先に明らかに人工物である柵と看板が見えた。
立入禁止を示すそれらを人一人が通れるくらいに広げ、縁寿が無事に通ったことを確認してから素早くも続く。
続く道は斜面で此処からでは先が見えなかった。
「此処まででいいわ。後は私一人で行く」
「言っても、無駄なんでしょうね。分かりました」
「大丈夫、もうゴールは近い。そんな気がするの」
「何かあったら声を出して下さい。駆けつけますから」
「何もないようにするのがあなたの仕事でしょ」
「その通りです。反論のしようもありませんね」
全くしょうがないわね、という風に肩を竦めてみせると、縁寿はそのまま斜面を登って行く。
それで、終わりだった。
には引き留める権利などないのだから。
彼女の背中が木立に紛れて消えるまで見送ってから、周囲に壁になりそうなものが無いかを探す。
待っているように言われた以上、は縁寿が戻ってくるまで此処を見張る必要があった。
遮蔽物の多い森の中で狙撃は考えられないので、少なくとも背後の安全が確保出来れば襲撃があったとしても、ある程度は凌げるだろう。
だが、あまり遠くに離れるわけにもいかない。容易に越えられる柵は到底バリケードの代わりにはならず、それならばまだ木々の陰に潜んだ方がマシというものだ。
何処までも広がるこの森で交戦するには一箇所に留まるよりも、移動して攪乱する方が勝算は高いが、そもそも今日の目的は勝利ではないのだから。
「そうだった……何やってるんだか、こんなこと無意味なのに」
事前に天草との間に取り決めていることを変更するわけにはいかない。
つまり、は此処で追っ手を始末してはいけないのだ。
此処まで来てしまえばもう、真剣に、縁寿の護衛をする必要は彼女にはないのだから。
ならばこの場所を見張る理由も、ない。
その事実に気持ちを弛緩させつつ、容易に割り切ってそうしてしまう自分には嫌悪感を抱いた。
一瞬とは言え、周囲への警戒を怠って自己の内へと籠もった。
それが失態だったと気付いた時には頭部に鋭い痛みが走り、地面へと倒れ伏していた。
途絶えそうになる意識を何とか掻き集めて、視界に入る足の持ち主を見上げる。
確かめるまでもなく、相手は分かっていた。
「あらあら、誰かと思ったらじゃないの。偶然ねぇ、こんな所で何しているのかしら?」
「須磨寺、霞・・・・・・」
「霞様、でしょう?」
その言葉と同時にの背中を強く踏み付けられ、肺が圧迫される。
呼吸が苦しくなり、視界が滲み始めた。
「須磨寺を裏切るなんて信じられないわぁ、両親共々世話になっておきながら恩を仇で返すなんて。アンタの躾は後よ。今日の本命は縁寿ですもの」
「っく・・・・・・」
もう一度だけ強く腹を蹴り上げられ、の意識は今度こそ途絶えた。
+++
馬鹿を踏んだ。あんな奴らに縁寿様を傷付けさせるつもりなんて無かったのに。
逃げ場の無い場所に追い込んで警戒心の薄れている時に、まとめて始末してしまいたかっただけだったのに。
寝ている場合じゃない。こうしている間にも、須磨寺霞は部下を使って縁寿様を痛め付けているだろうから。
縁寿様、私は貴方を――――
――眼が醒める。
意識を失う直前に何があったか、は明確に覚えていた。
不意に覚醒を促した原因である携帯を取り出すと通話に応じる。
「・・・・・・はい」
『おや、起きてたんですね。てっきりまだノックアウトなのかと思ってたんですが』
「貴方の電話で起きたのよ」
『そりゃ良かった。急いだ方が良いですぜ、そろそろクライマックスだ』
「言われなくても、分かってる」
ぶちりと通話を打ち切ると、携帯をポケットに捩じ込んでは眼前の急斜面を駆け登る。
天草が電話をしてきたということは、彼は目標ポイントに到達したということだろう。
元々須磨寺の始末はこちら側の仕事である以上、全てを彼に任せるわけにはいかない。
何よりも、そちらが済んでしまえば次はあちら側の仕事に入ってしまう。
何としても、それまでには着かねばならなかった。
+++
程なくしては丘の上と思われる場所に着く。
前方から聞こえてくる声の持ち主達に気付かれないように近くまで寄り、木の陰に身を潜めた。
縁寿を取り囲むように立つ6人の黒服と須磨寺霞、次の瞬間に黒服達が縁寿を射殺しかねない一触即発の状況であることはの居る場所からでも分かった。
ホルスターから馴れ親しんだ愛銃を取り出し、撃鉄を起こす。
「この子、恐怖でもう、頭がどうかしてるんだわ。バイバイ、縁寿ちゃん。・・・・・・天国で好きなだけ魔女ごっこをしてなさい。・・・・・・撃て」
霞の合図に応じて黒服の一人が縁寿へと銃を向ける。
直後、今なお眠り続けているこの島に銃声が響き渡った。
着弾した黒服の一人が倒れた後に聞こえているということに気付いたのは、恐らくだけだろう。
銃声よりも早く届く弾丸、それが意味するところはつまり狙撃だ。
1km以上も離れた場所から正確に心臓を撃ち抜いて見せる天草の腕に内心で関心しつつ、彼女もまた引き金を引く。
一発目は彼の役割だが、それ以外は状況に応じてとしか決めていない。
結果として、ランダムに行われる狙撃と近距離からの銃撃によって黒服達は混乱の極地にあった。
襲撃者の位置が掴めないということもあるだろうが、人質の代わりにするならばせめて自らの身体と重ねるべきであり、縁寿を引き倒して銃口を向けるなど全く以って無意味な行為だ。
それから、全ての黒服が物言わぬ屍と成り果てるまで5分も掛からなかった。
後に残ったのは目の前で起きた出来事が理解出来ずに座り込んでいる霞と、彼女に向き合うように立つ縁寿。
無防備な霞を撃つことは容易い、指一本動かせばの仕事はそこで終わりを迎える。
だから、縁寿が決着をつけるのを待ってから、は静かに引き金を引いたのだった。
それで、彼女の仕事は終わった。
しかし天草がこちらに来るまでまだ幾らか時間はある。
それならば、まだにはやらねばならないことがあった。
木陰から出て自分の元へと向かってくる彼女を、縁寿はただ見つめていた。
「てっきり死んだのかと思ってたわ」
「随分な言われようですが、護衛の役目を果たせなかった以上、甘んじて受け入れますよ」
「霞叔母さんの言うことを間に受けなかっただけで感謝して欲しいくらいよ」
「あの人は何と?」
「あんたが須磨寺のスパイだって。まぁでも裏切ったのなら連中と一緒に来ないってのもおかしいじゃない?」
「良い感じに殴られて気絶してましたからね」
「間抜けね」
木陰に居る際には気付かなかったが、島内でもそれなりの標高に位置しているからか強い風が二人の間を吹き抜けて行く。
こんな場所を狙撃して正確に心臓や頭を撃ち抜けるのだから、やはり彼の腕前は確かなのだろう。
これなら以前交わした約束も違わず叶えてくれると、視界の端に入った人影を意識しながらは思う。
足止めという目的に過ぎなかったが、それでもこうしてもう一度縁寿と言葉を交わせた。
悔いが無いとは言わないが、それでもには十分過ぎるほどだった。
不意に駆け寄って自分を抱き締めたを縁寿は驚いたように見る。
何が起きたかは分かっているはずだ、耳に届いた乾いた音が何よりも明白に縁寿に告げていたから。
刺すような痛みと同時に温かい感触が広がっていくのを感じながら、縁寿は顔を上げた。
「あぁ、駄目ね。全然駄目。護衛なら、もっとしっかりしなさいよ」
「済みませんね・・・・・・最後までこんなんで」
「馬鹿。やるならやるでちゃんと私のこと護ってみせなさい」
「それは、ちょっと・・・・・・・無茶振り、ってやつじゃ・・・・・・ないですかね」
激痛なんて甘いものではなく、正しく死に瀕しながらは縁寿に応える。
気を遣っているのだか何だか知らないが、さっさとしてくれと彼に大声で叫びたい気持ちでいっぱいだった。
一方で、自分に語りかける縁寿の声が今までになく穏やかなものであることにも彼女は気付いていた。
今顔を上げればきっと久しぶりに彼女の笑顔を見れるような気がする、そんな力はの身体の何処にも残されていなかったが。
それでも何とか顔を上げようとしたの耳に、再度乾いた音が聞こえた。
――あぁ、やっぱり・・・・・・あんな奴、死んだって認めてやるものか。
「ハバイナイスドリーム。シーユーヘル」
「クール」
孤独に生きることを定められた貴女に、私が出来る唯一のこと。
どうか最後にその瞳に映るのが、貴女の味方でありますように。
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