遅れて登場するのは
 場所は変わり、始業式会場。 そこではが予想した通り、始業式は既に始まっていた。 中等部より特別編入を果たしたレイによる新入生代表の宣誓も終わり、今は鮫島校長から今年度の予定について説明が行われている。 その説明とは、世界各地にあるデュエルアカデミア分校の主席生徒達を留学生として特別に迎え入れるというものだった。 留学生達が名前を呼ばれて一人ずつ姿を現す度に、会場は割れるような拍手と歓声で溢れ返る。 状況が一変したのは4人目の名前が呼ばれた時だった。

「アークティック校代表、ヨハン・アンデルセン君!」

 これまでの留学生達と同じように歓声と同時に現れると思われたその生徒が一向に現れなかったのだ。 誰も現れないことに、壇上の教師達も首を傾げている。 校長ですら把握し兼ねている事態に、会場はざわめきに包まれていった。



一方その頃の遅刻者二人。

「と、まぁそういうわけで衣食住が保証されているわけだから男子寮でも良いやって」
「いくらオートロック個室シャワー付きとは言え、周りは全部男なんだろ? もう少し危機感を持つべきなんじゃないか?」
「それ明日香にも言われた。何に対しての危機なのか良く分からなかったけど」
「……ライコウ、君も苦労してるんだな」
『お前に同情されても嬉しくない』

 二人は会話を続けながらも会場を目指して走るという器用なことをしていた。 そんなことをしていたら体力を無駄に使うことになるのだが、それも理由あってのことである。 の後ろを走っていた筈のヨハンが気付けば違う方向に進んでいるということが何度も起こり、その度に会場への到着は遅れていた。 そんなヨハンの類稀なる方向音痴を阻止する方法として提案されたのが、会話だったというわけだ。 流石のヨハンも会話をしている相手を見失うということは無かったらしい。 そうして今、漸く二人は始業式の会場へと辿り着くことが出来た。

「っ着いた、ヨハン! 入り口はあそこ」
「よし、此処だな!」

 走ってきた勢いそのままに、ヨハンは扉へと向かう。 センサー式であるその扉は彼の接近を感知すると、音を立てて開かれた。 半年以上離れてはいたものの教室の場所を正確に覚えていたが、一つだけ忘れていたことがある。 それは、始業式が行われる階段状の大教室は上から入ると壇上は勿論、会場中の視線を集めるということだった。 ヨハンに続くように扉の中に入ったは、せめて間隔を空けて入るべきだった、と気付いたが時既に遅し。 もまた、ヨハンと同様に注目されてしまっていた。

「いやー遅れた遅れた、俺方向音痴だからなぁ」
「そういうこと言ってる場合じゃないと思う、注目されてるし。とりあえずさ、前に行ったら。壇上に居るの他の留学生達みたいだから」
「そうするか。案内ありがとな、

そう言ってステージへと走り下りていくヨハンをはそのまま見送る。 が居るべき所は在校生達の側であり、壇上では無いからだ。 走り下りながら通路の横に居る生徒達に挨拶をしていく彼の姿を見て、十代が立ち上がって声を掛けていた。

「あれ、よう! 新入生! それに! 無事にそいつと会えたんだな」
「十代、知り合いだったの?」
「屋上で会ったんだよ。それよりさ、二人共その辺でヨハンって奴見なかったか?」
「え、ヨハン?」

 十代のその質問に驚いたのは本人であるヨハンは当然のこととして、上からその様子を見ていたもだった。 既に出会っていたということから名前も知っているものだと思っていたのだが、そうでは無かったらしい。 壇上の鮫島校長も、本人に対して「その人を見なかったか?」と尋ねる十代に対して何とフォローするべきか困ったような声を出していた。 当のヨハンはと言うと、悪びれたように頭を掻きながら十代に真実を告げる。

「へへっ、そのヨハンって奴は……俺なんだ」
「え?」
「悪い、別に騙すつもりじゃなかったんだけど。勝手に新入生って勘違いされちゃったからさ」
「そうだったのか。あ、もしかしてと前から知り合いか?」
「十代、その話は後で」

 始業式を私的な場にしつつある十代を諌めた後、自分もそろそろ座った方が良いと考えたはオベリスクブルーの生徒が集まる方へと向かう。 移動する姿を追い掛けるように視線が集まるのは遅刻してきたからだろう。 新学期早々悪目立ちをしてしまったことには心中で溜息を吐く。 視線を振り払うように席に着いてステージへと視線を向けた時には、丁度ヨハンが留学生達との挨拶を終えた所だった。 そしてもう一人、留学生達の後ろから新たな人物が現れる。 その風格からして、恐らく生徒ではなく教師なのだろう。

「今年、特別講師としてウェスト校から赴任した、プロフェッサー・コブラ」

留学生達の前を横切り鮫島校長の横に並んだコブラは、軽い合図により司会を譲られて口を開く。

「こんにちは、諸君。本来なら此処で、延々と挨拶でも述べるところだが、そんなものを聞いても君達の足しにはならん。くだらん話より実践あるのみ。それが私の方針だ」

どうやらコブラは、学校の式典にありがちな長い話を好む人では無いらしい。 理論より実践を重視するタイプ、言い換えれば結果が全てのタイプであるとも言える。 決闘が好きな者ばかりが集まるこのアカデミアでも、座学よりは実技を好む者が圧倒的に多い。 そういった理由から、この挨拶だけでコブラはかなりの生徒からの共感を得ているようだった。

「早速その方針に則り、エキシビジョンマッチを取り行う!!」
「エキシビジョンマッチ?」
「そんな話は聞いてないノーネ」

 突然の宣言に反応を示したのは生徒達だけではなかった。 校長やナポレオン教頭等が驚きを露にしているということは、このエキシビジョンマッチの開催については事前に聞かされていなかったのだろう。 招待講師でありながらも本校の教師には独断で行動する、コブラはかなりワンマンな所もあるらしい。 しかし、この催しに対する生徒達の期待が高まっているからか、校長も無理にそれを止めることはしなかった。

「対戦者は私の独断で決める。一組目はヨハン・アンデルセン、対するは――遊城十代」
「よっしゃぁ! 新学期早々、伝説のカードとデュエル出来るなんて、ラッキー」
「何故だ、何故オレじゃないんだ!」

 自分が呼ばれるものと立ち上がったにも関わらず、十代の名が呼ばれたことで出鼻を挫かれる形となった万丈目が不満をぶつける。 それを前の席に座っていた十代と剣山が、二人で何とか宥めていた。 そのようなことは瑣末な事態に過ぎないと思っているのか、コブラは気にも留めずに更に言葉を続ける。

「そして二組目は、先ほど遅刻してきた生徒に対戦して貰おうか。名前は?」
「……です」
「宜しい、。対戦者は留学生……誰か立候補する者は居ないか?」
「それでは、僕が立候補させて貰いましょう」
「アモン・ガラムか。結構」

 教師であるということは、のプロフィールも知っているのだろう。 そうでなくとも日本にある本校と違い、海外に存在している分校の方がの存在は知られている。 18歳という若さでI2社の重要な業務を担っているペガサスミニオンの一人。 指名されたのは『遅刻』だけが理由では無い、そういった事情も含まれているのだということをは何となく感じ取った。 しかし、敢えてそのことを公表するつもりは無いらしい。 プロフェッサー・コブラ……中々食えない人物である。

「では、1時間後に決闘を開始する」

 その言葉を最後に始業式は流れ解散となり、生徒達は次々に席を立って教室を出て行った。 気になる留学生達のデュエルをなるべく良い席で見る為に、早々にデュエルリングへと向かったのだろう。 「頑張れよ」と声を掛けていく者に答えながら、はその流れに逆らうように進んでいた。 与えられた1時間とは恐らくデッキ調整をする時間であり、それなら有効利用しない手は無いと考えたからだ。 誰にも邪魔されずに済むように人気の無い場所へと向かうにライコウが声を掛ける。

『どうするつもりだ』
「どうするも何も、全力でやる以外の選択肢は無いよ」
『あのコブラって奴、絶対に何か企んでるぞ』
「分かってる。だからと言って、決闘で手を抜くわけにはいかない」
『……お前がそう決めたならオレ達は力を貸すだけだ。ただ、やるからには、負けたら承知しないからな』
「当然、勝ちに行くさ」

 この半年間、決闘をした回数は20にも満たな。しかし、その相手は常に別格だった。 プロに並ぶ実力を持つとされるカード・プロフェッサー・ギルド、その中でも頂点に立つリッチーとデプレ。 彼達もまた、を気に掛けてくれていて、I2に来た際には必ず顔を見せてくれた。 そしてその度に、決闘の相手をしてくれていたのだ。 だから、実力は去年よりも確実に上がっている。 分校の主席とは言え、に負ける気は無かった。

「それにしても、この腕輪何なんだろう」

 贈り物という非常に胡散臭い言葉と共に付けられた腕輪。 見た所、留め金などが見当たらないのだが、どうやって外すのだろうか。 鈍く光って存在を主張するそれは、外し方が分からないこともあり、何故かの不安を駆り立てた。
2010.04.25.   top next