食えない相手・前
 デュエルリング上で向かい合う二人。 それを食い入るように見詰めている生徒達は、始業式とは打って変わって寮に関係なく赤黄青と入り混じって客席を埋めている。 そして三色のどれとも違う色の制服を着た留学生達は、客席とは別の場所から本校の生徒と同じ様にデュエルリングに注目していた。

「ヨハン、先にやりたかったんじゃないか?」
「まぁね。でも公平に決めたことだから仕方ないだろ。それにの決闘なら、直ぐ終わるだろうしな」
「Why?」
「そういうデッキなんだよ、は」

 それ以上何かを言うつもりは無いらしく、ヨハンはデュエルリングの方へと顔を戻す。 詳しいことはこれから始まる決闘を見れば分かるということなのだろう。 同じ留学生であるアモンは勿論、対戦者であるに対する期待も込めて、ジムもまた視線をリングへと向けた。
 注目を集めている内の片割れであるは、それらの視線を気にすることなく目の前の相手――アモン・ガラムに集中していた。 一方のアモンはと言えば、とは対照的に随分とリラックスした様子である。 これから決闘をするというには覇気が足りない。 自ら立候補したくせに、もしかしてやる気が無いのだろうか? しかし、がそのことを確認するよりも、アモンが口を開いたのが先だった。

「まさかこんな所で君に会えるとはね」
「……貴方とは初対面だったと思ったけど」
「君は有名だよ。と言えば、あのペガサスミニオンの一人。そうだろう?」
がペガサスミニオンだと!?」
「なぁ、万丈目『ペガサスミニオン』って何だ?」
「そんなことも知らないのか、十代!」
「俺だけじゃないって。翔達も知らないみたいだぜ?」

 大袈裟なまでの反応を見せた万丈目に対して「それってそんなに凄いのか?」と十代達は首を傾げるばかりだった。 彼達がその存在を知らないのも無理は無い。何故ならペガサスミニオンが活躍しているのは主に海外の組織だからである。 そして、ペガサスミニオンの存在は大々的に公表されているわけではない。 数々の組織の中で活躍している者達が同じ『ペガサスミニオン』であるということが自然と広まり、今や公然の事実となっているに過ぎない。 一部の者を除いて、日本ではあまり知られていないのはそういった事情があった。 だからこそ、明日香は十代達を批難することなく説明をするのだった。

「『ペガサスミニオン』はペガサス会長が世界中から集めた優秀な孤児達のことよ」
「ふーん。なんでそんなに有名なんだ?」
「その半数は決闘者として、残りの半数はゲームデザイナーやプログラマーとして世界各地で活躍してるの。名実共に優秀な人間しか居ないということね」
「凄い人達なんスね。くんも、そんな凄い人達の一人ってことかぁ」
「そうね。でも、はあまり知られたくなかったみたいだけど……」

明日香が心配げな顔を向けた先に居るは、一見すると特に変わりは無いようだった。 慌てているようでもなく、ましてや怒っているようでもない。 けれども、勝手にプライベートを公開されたのだ。全く何も感じていないということは無いだろう。

「どうやらアカデミアでは隠していたようですね。迷惑を掛けてしまったかな」
「別に、言ってしまった言葉は取り消せないし。それにペガサスミニオンであることが他の人にとって重要だとは思えない」
「その通り。だが、君の仕事を知っても同じだろうか?」

 の表情に変化があった。 先程までとは違い、はっきり「不快だ」とそれは告げている。 『ペガサスミニオン』という称号は彼達自身にとって決して忘れないペガサスへの恩義と絆の証であり、そこには彼達以外の者には分からない意味がある。 だから他人に知られようと構わないと言い切ることが出来た。 しかし、仕事についてはそうはいかない。 デュエルモンスターズに関わる者ならばの仕事を無視することは出来ない。 それ程までの重要性を持つこと。そして、ペガサスから任された仕事はにとって誇りとも言えるものであったことから感情を露にしたのだろう。 そんなの睨み付けるような視線を向けられながらも、アモンの態度は崩れなかった。

「どうして知ってる?」
「推測を重ねていけば難しいことでは無いよ」
「それで、目的は何」
「誤解があるようだね。僕は君の仕事に興味は無い、君自身に関心があっただけさ」
「……益々意味が分からないんだけど」
「難しいことは何も無い。君はこれから僕と決闘をしてくれれば良い、それだけだよ」

漸くアモンが決闘盤を構える。 彼が何をしたいのか、は未だ理解出来てはいなかったが相手が構えたならば応えないわけにはいかない。 それが決闘者だ。

「色々と問い詰めたいことは沢山あるけど、今は」
「冷静さは欠かないというわけか」
「さぁね、TPOの問題かな」

「「決闘っ!!」」


◆◆◆


「先攻は僕が貰うよ、ドロー。手札から永続魔法【召喚雲】を発動。この効果により、手札から【雲魔物―ポイズン・クラウド<☆3 0/1000>】を攻撃表示で特殊召喚する。そして【雲魔物―アルトス<☆4 1300/0>】を攻撃表示で召喚。このカードは召喚に成功した時、フィールドに存在する雲魔物と名のつくモンスターの数だけ自身にフォッグカウンターを乗せることが出来る。今、フィールドには2体の雲魔物が存在する、よってカウンターは2つ。これでターンエンドだ」

 アモンはいきなり場に2体のモンスターを揃えた。 これで次のターン、にどちらか1体を破壊されてもアドバンス召喚の為の生贄が場に残される。 加えて、その召喚を活かしてカウンターも蓄積されている。 1ターン目としては順調な滑り出しだった。

「【雲魔物】か。個々の攻撃力は高くは無いが厄介な効果を持ってそうだ」
「それは君自身が確かめてみればいい。さぁ、君のターンだよ」

決闘をしている最中にも関わらず、緊張感に欠けるアモンには僅かに顔を顰める。 開始前の会話の影響もあるが、どうにも彼の態度が好きになれなかった。

「言われなくても……ドローカード! モンスターを裏守備表示で召喚。そして、リバースカードを1枚伏せてターンエンド」
「おや、攻撃はしないのかい? 僕が次のターンで上級モンスターを召喚しても構わないと」
「まぁね。何をした所でこの決闘が10ターン以内に終わることに変わりは無いし」
「10ターン以内に? それは君の勝利宣言ということかな」
「貴方自身が確かめてみればいいさ」

 敢えて無言ではなく、先程自分が向けられた言葉をそのままアモンへと返したことがの心境を良く表していた。 この決闘の間、一貫してアモンに対して辛辣な態度を崩すつもりは無いということなのだろう。 その様子から会話の余地は無いと判断したのか、仕方ないというようにアモンは肩を竦める。

「では、君の言葉に従って確かめてみようか、ドロー。【雲魔物―アルトス】で裏守備モンスターを攻撃」
「罠発動【炸裂装甲】攻撃宣言をしたモンスター1体を破壊する。攻撃モンスターが破壊されたことで戦闘も無効化される」
「僕は【雲魔物―ポイズン・クラウド】を守備表示に変更し、モンスターを裏守備表示でセットして、ターンエンド。これで残りは7ターンだ」

 アモンが上級モンスターの召喚を行わなかったことに、会場内から意外そうな声が幾つも上がる。 無駄に攻撃に行ってモンスターを消耗しただけでは無いのか。 しかし、彼の顔は未だに余裕そうな表情を浮かべていることを正面から向き合うだけは知っていた。 だが相手の様子がどうであれ、のやることは変わらない。 勝利を目指す、それだけだった。

「そろそろこっちも行かせて貰うよ。ドロー!! 裏守備モンスター【ライトロード・ハンター ライコウ<☆2 200/100>】を反転召喚」
「こんな広い場所での決闘は久々だな。それで、今日はどれを壊せば良い?」

 現れたのは、が連れ歩いている精霊・ライコウだった。 生来持ち合わせている狩猟本能を剥き出しにして、対戦相手であるアモンとその場に出現しているモンスターを睨み付ける。

「【ライトロード・ハンター ライコウ】のリバース効果を発動。このカードがリバースした時、フィールド上のカードを1枚選択して破壊する。破壊するのは【雲魔物―ポイズン・クラウド】! そしてこの効果を使用した後、デッキから墓地に3枚カードを送る」
「なるほど、リバース効果モンスターか。しかし、この効果で3枚のコストとしては高いように僕は思うね」
「墓地に送ることにも意味があるんでね。この瞬間、墓地に送られた【ライトロード・ビースト ウォルフ<☆4 2100/300>】の効果が発動!デッキから墓地に送られた時、このカードを特殊召喚することが出来る」

墓地から戻ってきたカードをモンスターゾーンに攻撃表示でセットすると、筋骨逞しい獣人のモンスターが表れる。 その名が示す通り狼の頭部を持つそのモンスターは、主であるを守るかのように立ち塞がった。

「更に手札から【ライトロード・サモナー ルミナス<☆3 1000/1000>】を召喚して、モンスター効果を発動。手札を1枚墓地に送ることで、墓地から【ライトロード】と名の付いたモンスター1体を特殊召喚することが出来る。墓地に【ネクロ・カードナー<☆3 600/1300>】を送り、【ライトロード・ウォーリアー ガロス<☆4 1850/1300>】を攻撃表示で召喚!」

 僅かな時間でのフィールドには4体のモンスターが揃った。 対するアモンのフィールドには裏守備モンスターが1体だけ。 圧倒的有利なこの状況で、攻撃をしない決闘者は居ないだろう。

「【ライトロード・ウォーリアー ガロス】で裏守備モンスターを攻撃!!」
「戦闘で墓地に送られたことで【雲魔物―羊雲】の効果が発動。自分フィールド上に【雲魔物トークン<☆1 0/0>】を2体、守備表示で特殊召喚する」
「でもこちらにはまだ、バトルフェイズを行っていないモンスターが3体居る。【ライトロード・ハンター ライコウ】と【ライトロード・サモナー ルミナス】で2体の【雲魔物トークン】を攻撃。そして【ライトロード・ビースト ウォルフ】でプレイヤーにダイレクトアタック!!」
「くっ……」

【ライトロード・ビースト ウォルフ】の攻撃力は2100、低級モンスターの中ではかなりの攻撃力である。 そのダイレクトアタックを受けて、漸くアモンの表情が崩れた。

「リバースカードを2枚セットして、ターン終了だ。エンド宣言と同時に【ライトロード・サモナー ルミナス】の効果が発動する。デッキから墓地に3枚のカードを送られたことで、【ライトロード・ウォーリアー ガロス】の効果が発動。【ライトロード】の効果でデッキから墓地にカードが送られる度に、デッキから更に2枚のカードを墓地に送る。そして、この効果で墓地に送られた【ライトロード】と数だけ、デッキから手札にカードを加える。
今墓地に送られた【ライトロード】は1枚、よって手札に1枚カードを加えさせて貰うよ」

 このターンのフィールドには4体のモンスターが揃った。 姿は様々であるが、どのモンスターも白と金を基調としているという共通点がある。 それがモンスター達が【ライトロード】という名を冠しているという分かり易い証なのだろう。
一気に展開した決闘に、その興奮を隠すことなく観客席から大きな声が上がる。 それは十代達も例外では無かった。

「1ターンで一気に4体も召喚か、の奴すげぇな!」
「暫く会わない間にまた腕を上げたようだな。まぁ、オレにはまだまだ及ばないだろうが」
「そんなこと言って負けた時に困るのは自分っスよ、万丈目くん」
「LP5900のアモンに対してのLPは8000、しかも場には4体のモンスター。が優勢ね」

入学時からを知っている同学年の4人は各々、決闘について好きなようにコメントしている。 それに対して学年の違う二人は予想外のの実力に驚きを隠せないようだった。

先輩、あんなに強かったなんて知らなかったドン」
「あの【ライトロード】ってモンスター、先輩に似合ってるね、綺麗な感じがして。綺麗で決闘も強くて、凄いなぁ」
「そういえばGenexの時は居なかったわね。は強いわよ」
くんなら、このまま留学生にも余裕で勝っちゃうかもね」

LPやフィールドの状況から言っても、が有利であることは確かである。 皆がの勝利を確信しつつある中、十代だけが訝しそうにアモンを見詰めていた。

「でも、あのアモンって留学生。なんか手抜いてるように見えるんだよなぁ」

その呟きは誰の耳に届くことも無く霧散する。

2011.07.04.   top next